「農業と経済」

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4月販売 「農業と経済」コラム 掲載

「農業と経済」4月号にナビベーター垣内がコラムを掲載。今回は田舎暮らしナビゲーターでは無く、猟師(ハンター)垣内として、猟師が見つめる山と野生の現実 とい言う内容でコラムを書かせていただきました。 猟師として今年で23年目を迎える。

 

猟師が見つめる山と野生の現実

 

残念ながら、近年の山の荒廃は止まることを知らない。豊かな実を付け、野生動物の餌としての役割を果たしていた広葉樹林は急速に姿を消しつつある。

間伐によって林床に太陽光線が届き、下草が生育しやすい環境を作り出し、加えて土砂災害土壌の流出防止のためにも重要な保育作業を放棄された植林の山が増えてきているからである。

自治体によっては、間伐を一般参加のイベントやボランティア活動として森林体験的な内容で啓発活動も行ってはいるが、マクロな観点から山と自然を捉えると残念ながら極めて部分的な対症療法であることは否めない。

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地域の条件によって異なると思うが、私の住む中山間地域では特に『山が里を侵食している』とでもいえる状況が進行している。

この荒廃のメカニズムとは。林業の衰退に伴い所有者が山を放棄すると、保全や整備の人が入らない。そのため林道の自然崩壊が進み、猟の車すら入れずより荒廃が広がる。

しっかり根を張り保水力の高い広葉樹が消え、土砂災害が増える。さらに倒木や立枯れが進み益々山が荒れる。さらに、過疎や高齢化による脱農で廃屋が増え、果樹や田畑が放置されて「山」の侵食に輪をかけることになっているのが現状である。

里山との境界が無くなり、餌の無い山から様々な野生動物が里に下り易い環境が出来上がってしまっている。

小動物は廃屋に棲み付き、猪は廃田を掘り返しモグラやミミズを捕食する。鹿は放置された田畑の草を()み、猿や熊は収穫されないままの果実を餌とする。

これらの繰り返しが山野の野生動物の増加に繋がり、里は至る所で「山化」している。

国立公園や世界遺産、そして研究用の演習林といった特殊な保護、管理条件下の地域以外の「山と里」は、殆んどこのような有様を呈しているのではないだろうか。

それやこれやが重なり、最近数多く報道される「山に棲息するはず」の野生動物が私たちの生活エリアに出現し、重大な社会問題となることも頷けるのである。

今後、これ以上の自然崩壊が進めば、中山間地域の農業や生活者に与える被害は、増えることはあっても減るとは考えられない。

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近年「海は山が作る」という言葉をよく聞くようになった。

豊かな広葉樹林は秋になると葉を落とし、落ち葉はやがて分解され栄養分豊かな土となる。そして、山に雨が降ると豊かなミネラルを含んだ水(川)となって海まで運ばれ、その栄養分によって植物性プランクトンが増える。魚や貝が育つ豊穣な海は、そこに繋がる山の豊かさと大きく関係しているのである。

自然と人間の共生ということを促進させるためには、水の循環や生物の食物連鎖など、自然の循環を総括的に捉えた上で、山や森林の保護・育成を考えなければならない。

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猟師として思う。山や自然を経済活動という名目の基に乱開発し、自然の生態系に大きな影響を与えた上に、山を離れざるをえなくなった野生動物達を人間が邪魔者扱いしても良いのであろうか。

年々増加する甚大な農業災害や、人的被害を防がなければならないことは十分理解できるが、今は野生とのより適切な共生の形を模索する時代であると思う。

里での簡単な捕食を知ってしまった野生獣を元の野生に戻すことは非常に難しい。なぜなら、彼らは学習能力が非常に高いからだ。

時間はかかるだろうが、豊かな山を次世代に残すには「人間が自然の掟を無造作に破ってはいけない」という原点を再認識するべきであると思う。

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ベテランの猟師は、どんな足跡でも瞬時に何者なのかを見抜くことができるという。先ず獣の種類、何頭いるか、個体の大きさや子供を連れているか、どこに向かっているか、などである。

その獣道(けものみち)に残る足跡が土壌の流出や倒木で途絶えていたとしたら・・・。

       *

近年、狩猟は趣味やスポーツとしては盛んだが猟師は確実に減っている。猟師は、自然を、山や木を、そしてそこに棲息する生き物の生態を知ることに始まると教えられた。

今からでも決して遅くはない。人間と野生の生き物が「健全な山」を媒体に、「良き隣人」として共生できる自然環境の再生を願っているのは私だけではないだろう。

 

      京都府福知山市 垣内忠正

 

 

 

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猟師が見つめる山と野生の現実
猟師が見つめる山と野生の現実
2011/05/01
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